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2010年国民読書年に障害者・高齢者の読書バリアフリーを実現する会


by e-dokusho
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読書をバリアフリー化―障害者・高齢者に情報格差(読売新聞2010年2月6日朝刊・解説面「論点」)

※読売新聞社から許諾を得て、掲載しています。

 宇野和博(うの・かずひろ)
 筑波大付属視覚特別支援学校教諭。著書に「拡大教科書がわかる本」など。39歳。

 2010年は国民読書年である。本は私たちの文化的な生活を支え心を豊かにしてくれるだけでなく、過去からの英知を受け継ぎ、未来へと引き継ぐべき崇高な知的財産と言える。だが、日本には通常の活字図書をそのままでは読むことができない視覚障害者や、読み書きに困難のある学習障害者、低視力の高齢者が数百万人いると推計されている。これは、読みたくても読めないという由々しき情報格差だ。そこで求められるのが「読書バリアフリー」である。

 1990年代から主に建物や交通機関を中心に「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」という考え方も普及し始めたが、この理念は知的財産や情報にも当てはめるべきだろう。拡大文字や点字、音声といったニーズに応じた読書媒体を選択肢として保障し、障害者や高齢者にも多くの本を「買う」自由と「借りる」という権利を選択肢の両輪として確立することが求められる。

 その鍵を握るのが出版社と図書館だ。今日の読書は従来のように「本屋で本を買って読む」「図書館で借りて読む」といった方法以外にも「電子書籍をインターネットからダウンロードして携帯電話やパソコンで読む」など様々な形態も見られるようになってきた。この電子データが読書困難者を救う試金石となり得るのである。

 電子データが加工しやすく、かつ障害者や高齢者がアクセスできる状態になっていれば、図書館やボランティアがそれぞれのニーズに合わせて読みやすい媒体に変換することはそれほど大きな負担ではない。もっとも障害者や高齢者がパソコン上で自ら電子データを利用し、文字を大きくしたり、合成音声で聞いたり、点字ディスプレーで読むこともできるため、情報に時差なく自力でアクセスすることも可能になる。

 しかし、現在の国立国会図書館の電子図書館はバリアフリーになっていない。また、全国に約3100ある公共図書館で障害者サービスを行っているのは600程度に過ぎない。知の宝庫とも言える図書館には地域の読書困難者にも利用できるような拡大図書や音訳図書などのバリアフリー媒体を所蔵し、いつでもどこでもだれでも利用できる図書館を目指してほしい。

 我が国も批准を目指している国連障害者権利条約には「障害者が他の者と平等に文化的な生活に参加する権利を認めるものとし、利用可能な様式を通じて、文化的な作品を享受するためのすべての適当な措置をとる」と定められている。読書のバリアフリー化は、憲法が定める基本的人権の尊重や障害者権利条約批准のための国内法整備という観点だけでなく、真に障害者の自立と社会参加を促進し、高齢者の文化的生活を保障することでもある。

 さらに、我が国の知的で活力ある文化の形成や力強い経済活動に貢献することにもつながる。このような施策の推進には、障害者や高齢者の読書環境を改善するための具体的な法制度、出版社などの民間活力、著作権者の理解、ボランティア団体との連携などの総合的な体制の整備が必要である。

 そして、国民読書年を契機に、障害の有無や年齢、身体的条件にかかわらず、すべての日本国民が知的で文化的な読書活動に親しめるような政官民一体となった取り組みが望まれる。
by e-dokusho | 2010-02-08 21:54 | 新聞・雑誌記事から